環太平洋経済連携協定(TPP)についての見解
菅直人首相は、2011年1月の通常国会の施政方針演説において、「本年6月をめどにTPP交渉参加について結論を出す」と、「平成の開国」を全面に打ち出し、参加に前向きな姿勢を示しています。しかし、TPPは日本の将来や国民生活に大きく影響すると言われており、参加の是非をめぐる具体的な判断材料が乏しい中、拙速に結論を急ぐのは避けるべきです。
そもそもTPPは、個々の国や地域が相互に協定を結んで関税を撤廃し合うFTA(自由貿易協定)とは異なり、参加する国・地域のすべてが原則として関税を例外なく撤廃する協定です。また現在おこなわれているTPP交渉は、農業をはじめ医療、環境、労働、サービス、知的財産権、投資など多岐にわたっています。とくに農業や医療分野は人間の生存にかかわるテーマだけに、正確な情報をもとに広範な議論と国民的合意が重要です。
農業は、人間の生存にかかわる根源的な機能を果たすだけではなく、水資源の管理や生態系の維持など多面的な機能を果たしています。また国内で安定的に安全・安心な食料を供給するということは、食料の安全保障を確立することであり、国家戦略の重要な課題となります。ところがTPPに参加して関税を撤廃した場合、農産物の生産額は4兆1千億円程度減少、農業の多面的機能は3兆7千億円程度喪失、そして食料自給率(カロリーベース)は2009年度の40%から14%まで下がると試算されています(農水省)。このようにTPPへの参加は農業に壊滅的な打撃を与え、安全な食料確保をはじめ国民生活に重大な影響を与えることが指摘されています。
また医療分野への影響は、日本の混合診療の全面解禁による公的医療保険の給付範囲の縮小や安全性の低下など、日本の医療・介護の市場化・営利化が一層加速することが予測されます。さらには国民皆保険制度の崩壊など、国民の健康が脅かされるのではという懸念の声が出されています(日本医師会、日本医療福祉生協連)。
このように、TPPへの参加は、食料・農業や医療分野をはじめ国民生活全般にわたって大きく影響します。とくに非常事態において食料や医療は生命維持の根幹をなしますが、このたびの東日本大震災はそのことを如実に証明しています。将来にわたって禍根を残さないためにも、国民的議論を経ない拙速な結論に至らないよう強く求めます。
2011年4月13日
広島県生活協同組合連合会 理事会 |